1 納税猶予を受ける場合の手続
遺言書の重要性を理解していただくために、納税猶予を受ける場合の手続を知っておくことが大事です。
相続税の申告期限は、被相続人が死亡してから10ヶ月と定められています。
したがって、納税猶予を受けるためには、申告期限である10ヶ月以内に遺産分割を終了し、農業委員会の確認を受けた上で相続税の申告をする必要があります。
遺産分割が終了するだけでなく、農業委員会での確認まで相続税の申告期限までに終わらせておく必要がありますので、納税猶予を受けない場合の遺産分割に比べて期限が短くなってしまいます。
遺産分割終了後、できれば登記を終わらせてから農業委員会での確認を経ることになりますが、農業委員会は月に1回しか開かれないため、それに間に合わなかったことも考えると、被相続人の死亡後半年以内には遺産分割協議を終えてしまうことが理想です。
もし納税猶予を受けることができなかった場合、農地に対する相続税を納めなければならないため、多額の納税資金を用意しなければならず、農地を相続する相続人には想定外の負担となってしまう場合があります。
2 納税猶予を受ける場合の遺産分割の一例(遺言がない場合)
被相続人:父A助(85歳)
相続人:母B美(82歳)、長男C男(57歳)、二男D男(55歳)、養子E太郎(長男の子)
代々続く農家で、以前から納税猶予を受けている。
農地も多く、相続税の申告が必要である。
二男のD男は浪費癖があり、父A助も多額の援助をしてきていた。長男C男は仕事をしながら父A助の農業を手伝っており、財産形成にも貢献してきた。
父A助もその貢献を認めており、長男の子E太郎を養子とし、二男D男の相続分を減らそうと考えていた。
このような状況でA助は病気により亡くなってしまいました。
相続人はB美、C男、D男、E太郎であったが、E太郎は遠方に居住しており、C男の子でもあることから、C男に任せるとのことで遺産分割協議には参加していませんでした。
49日も過ぎたころ、D男から遺産分割はどうするのかという連絡がC男のところにありました。C男は、法定相続分どおり、D男には6分の1の財産を渡す予定であると回答しましたが、D男は、その話を聞いて初めてE太郎が養子となっていることを知り、怒ってしまいました。
そして、法定相続分は6分の1かもしれないが、もともと4分の1はもらうはずだったのだから、それ以下では認めないと言い出してしまいました。
相続税の申告もあったことから、C男は税理士のところに相談に行きましたが、そこで初めて納税猶予を受ける必要があること、納税猶予を受けるためには早期に遺産分割を終わらせなければならないこと、納税猶予を受けられない場合には3000万円の納税が必要となるということを聞きました。
C男は、なんとしても早期に遺産分割をしなければならないことから、再度D男と話し合いをし、6分の1よりも少し多めに渡すことを提案しましたが、D男は頑として譲らず、その場も平行線で終わってしまいました。
そうしているうちに数ヶ月が経ってしまい、そろそろ遺産分割を完了させないといけない時期が近付いてきました。多額の納税が必要となることや、多額の弁護士費用や調停等の時間がかかってしまうことも考え、結局C男はD男の提案を飲んで遺産の4分の1近くの財産を渡すことで遺産分割協議書を作成しました。
3 遺言の重要性
このように、養子等の相続対策をしていたとしても、遺産分割協議がまとまらない場合には、納税や期間のことも考えて相手方の要望を飲まなければならない場合が出てきます。
もしC男さんの事例で遺留分を侵さない遺言が作成されていたとすれば、C男さんはスムーズに納税猶予を受けることができ、遺留分以上の財産を渡す必要もありませんでした。もちろん、D男さんに法定相続分相当の財産を渡すという内容にしておけば、D男さんが争う余地はかなり少なくなります。
納税猶予を受けておられる農地をお持ちの方は、ぜひお早めに当事務所までご相談ください。弁護士や司法書士、不動産業者の同席をご希望の場合にはその旨お伝えいただければ同席も可能です。
この記事を書いた税理士
税理士 谷 明憲
所得税・法人税に加え、相続税も数多く取り扱う税理士です。
谷税理士法人までお気軽にお問い合わせ下さい。